SCIENCE & TECHNOLOGY
Scientists Find Large Amounts of Precious Metals in Wastewater
November 08, 2017

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ここ数か月、詰まった下水道の記事が世界的に見出しを飾っていた。例えば、いわゆる「脂肪の山」つまり油脂とおむつの塊がロンドンの下水道を詰まらせた

新たな研究によって、下水システムから珍しい物質が発見された。大量の希少金属・貴金属だ。

研究者はスイス各地で64箇所の汚水処理場を調査した。政府の報道発表によれば、これは先進国において汚水中の成分を突き止める初めての研究だ。

研究者は、処理場の廃水と汚泥から3,000キロの銀と43キロの金を回収した。物質の価値はおおよそ310万ドル程度になる。

銀や金は微粒子の状態だった。研究者によれば、粒子を流出させた可能性が最も高いのは、化学製品、医薬品、時計を製造する過程だという。

バース・ブリンズは研究者の一人だ。「腹を立てた男性や女性が宝飾品をトイレに投げ捨てるという話を聞いたことがありますが、指輪を見つけたことは一度もありませんよ。残念ながらね」と彼は話している。

「金や銀の水準は非常にわずかなものです。マイクログラムとか、更にはナノグラムです。でもそれを合計すると、相当な量になるのです」

研究者はまた、大量の希土類鉱物も発見している。

金属濃度の水準はスイスの法に抵触していなかった。金属は水が飲料水システムに入る前に除去されていたのだ。

ブリンズは人々に、飲料水中の貴金属を探そうとしないように警告している。「金や銀を回収しようとして水道水を沸騰させるのは意味がありません。なぜなら、再び飲料水の供給に入る前に、それらは既にろ過して取り除かれているからです」と、ブリンズは述べている。

ジョン・ラッセルでした。

[ノート]
Scientists Find Large Amounts of Precious Metals in Wastewater:科学者が廃水から大量の貴金属を発見(タイトル訳は改題)

In recent months:最近数か月・ここ数か月
story:話・物語・記事・ネタ
sewer:下水道・下水管
get clogged:詰まる
clog:詰まる・塞ぐ・渋滞する
make headline news:トップニュースになる
headline:見出し・トップ記事
so-called:いわゆる・世に言う
fatberg:脂肪の山
fat:脂肪・油脂・脂
berg:氷山
mass:塊・集団・多量・大量
grease:グリース・潤滑油・油脂・油
diaper:おむつ
find:出会う・見つける・発見する・気付く・理解する・取り戻す・獲得する
stranger:<名詞>見知らぬ人・他人・初めての人・不慣れな人・部外者・<形容詞>奇妙な
material:原料・材料・素材・物質・器具
wastewater:廃水・汚水・下水
large amounts of:多量の・多大な・膨大な
rare metal:希少金属・レアメタル
precious metal:貴金属
examine:観察する・調べる・分析する・研究する・試験する
wastewater treatment:排水処理・汚水処理
across:(ここでは)各地の・全域の
Switzerland:スイス連邦、通称スイスは、ヨーロッパにある連邦共和制国家。永世中立国だが、欧州自由貿易連合に加盟しているほか、バチカン市国の衛兵はスイス傭兵が務めている。スイス連邦の正式名称は4種の公用語で定められているが、硬貨や切手などのように4種を併記する余裕がない場合、単独で使用することが許されるラテン語の国名(Helvetia、ヘルヴェティア共和国も参照)が定められている。(wikipediaより)
press release:報道発表・プレスリリース
study:学習・勉強・研究・報告書・研究論文
trace:跡を追う・たどる・なぞる・突き止める・探し出す・解明する
element:成分・要素・元素・原因・・要員
industrialized country:先進工業国
effluent:廃水・排水・廃液・流出物
sludge:泥・ぬかるみ・かす・汚泥・スラッジ
value:価値・値打ち・価額・値段
somewhere around:およそ~くらい・付近・どこか~近く
form:形・姿・外見・書式・型・種類・形態・状態
tiny particle:微粒子
tiny:小さな・ちっぽけな・微小な
particle:粒子・小片
most likely:最も~しやすい・最もありそうな・可能性が高い・十中八九
release:解放する・自由にする・発表する・発売する・釈放する
during:~の間中・~の間に
manufacture:製造する・作る・加工する
chemical:化学物質・化学製品
pharmaceutical:薬剤・医薬品
watch:腕時計・懐中時計
Bas Vriens:Swiss Federal Institute of Aquatic Science というところに所属しているらしいが資料見つからず。
throw down:投げ捨てる
例文throw ~ down the drain:~を下水管に流す
jewelry:宝石・宝飾品
toilet:トイレ・便器
ring:指輪・環
unfortunately:不運にも・残念ながら・あいにく
level:高さ・水準・度合・段階・程度
microgram:マイクログラム・百万分の1グラム
nanogram:ナノグラム・10億分の1グラム
add up:合計する
pretty:相当・かなり・非常に
substantial:実在する・頑丈な・十分な・相当な・裕福な
例文substantial amount:相当量・かなりの量
rare earth mineral:希土類鉱物
concentration:集中・集結・集団・濃度
violate a law:法に触れる・法律を破る
remove:取る除く・除去する・排除する
enter:参加する・入る
drinking water:飲料水
caution against:~に対して警告する・~しないように警告する
例文caution someone against listening to:~に耳を貸さないように警告する
try to:~しようとする・~しようと努力する
make sense:意味を成す・道理にかなう・筋が通る
boil:沸かす・沸騰させる・ゆでる
tap water:水道水
recover:正常な状態に戻す・回復する・取り戻す・回収する
例文recover ~ by filtration:~をろ過により回収する
filter out:ろ過して取り除く・除去する
re-enter:再び入る・復帰する・再入力する

関連する日本語の報道を紹介します。まず話の枕に使われている、ロンドンの下水道が詰まった話。BBCの日本語版から「脂肪の山の化け物 ロンドンの下水道に 2017年09月13日」 記事を引用すると、
ロンドン東部で、重さ130トン、長さ250メートルの脂肪の山が、下水道を詰まらせているのが発見された。
「fatberg(脂肪の山)」と呼ばれるかたまりは、台所の流しから捨てられた油脂や、水洗トイレで下水道に流されたウェットティッシュ、おむつ、コンドームなどが寄せ集まってできたもので、水道事業者テムズ・ウォーターが撮影した。
取り除くには3週間はかかるという。
どうもこれはロンドンでは珍しいことではないようで、AFP-BBは2014年に「ロンドン地下世界、「ファットバーグ」と闘う人びと 2014年12月18日」という記事を書いています。 記事の一部を引用すると、
英ロンドン(London)の地下では毎日、下水道作業員たちが下水管にこびりついた腐敗した食用油の塊を除去するという陰気な闘いを続けている。下水管を詰まらせる巨大な廃油の塊は氷山(アイスバーグ)になぞらえて「ファットバーグ」と呼ばれ、クリスマスシーズンには台所から排出される50メートルプール2つ分にもなる大量の七面鳥の油によって、さらに状況が悪化する。
(中略)
ファットバーグは食用廃油がウェットティッシュや生理用ナプキン、コンドームなどありとあらゆるゴミと一緒に固まったものだ。ロンドンとイングランド南東部に張り巡らされた総全長およそ6万9000キロの下水管では、ファットバーグをめぐる問題が深刻化の一途をたどっている。
(中略)
ファットバーグが原因の下水管の詰まりは毎年8万件ほど発生し、除去費用は毎月100万ポンド(約1億8000万円)にも上っている。また、約7000人の顧客が自宅で下水の逆流による浸水被害に遭っているという。
これは下水に流してはいけないものを流さなければ生じにくい現象であり、市民のマナーが問われる問題です。日本ではあまり聞かない話なので、その点では日本人は真面目なのでしょうか。
で、本題のスイスの下水の話。HUFF POST日本版から「スイスの下水には金銀が含まれていた 年3億円相当を発見 2017年10月13日」 記事の一部を引用すると、
流れ込んでいたのは、金銀のほかチタンやゲルマニウムなどのレアメタルを含む複数の金属。それぞれが微量だが、まとまると大量になる。例えば金の量は年間で43キロ、銀は3000キロ、ネオジム1500キロなどと推定され、合計すると年300万フラン(約3億4400万円)となる。
しかしこれで大儲けできるかと言えば、残念ながらそうではないようで、
ただし、沈殿物の中から微量の金属を抽出するコストについては、効率が良いと言える状態ではない状態だ。
(中略)
金の精錬施設が集中している南部ティチーノ県では特に金属の蓄積量が多く、EAWAGは回収する価値があるかもしれないとみて調べている。
だそうです。
ちなみに、これは日本でもかつて2009年に同じ話がありました。スラドというサイトから「下水の汚泥から金を抽出、売却収入は500万円 2009年01月29日」 記事を引用すると、
長野県諏訪市の下水道処理施設で処理する汚泥に多量の金が含まれていることが分かり、この汚泥を処理した「溶融飛灰」を金属精錬会社へに売却することで 500 万円もの収益を得られたと長野県諏訪建設事務所が発表した (読売新聞の記事、長野日報の記事より) 。
この下水道処理施設は工業用下水の処理も行っており、諏訪湖周辺には半導体工場やめっき工場が集積しているために下水に多くの貴金属が含まれていたようだ。従来、この溶融飛灰は産業廃棄物として処分しており、年間 700 万円ほどの処理費用がかかっていたが、この費用を削減できるうえに収益にもなると、長野県はホクホク顔のようだ。
こっちは収益になっているんですね。(しかし、読売新聞も長野日報も当時の記事がリンク切れになっているのは残念です。過去記事消すとかリンクが切れるとか、メディアとしてそれでいいのか?って思います。)
産経新聞がスイスの話を記事にしているのですが、残念な記述が出てきます。「下水処理場に“ゴールドラッシュ”の予感…金銀レアメタルが採れたスイス、「黄金の国」日本でも 2017.11.5」 記事の一部を引用すると、
スイス公共放送協会のニュースサイト「スイス・インフォ」は、金銀に加えてレアメタル(希少金属)やレアアースも下水などから“産出”したと報道。磁気共鳴画像装置(MRI)の造影剤や光磁気ディスクに使われるガドリニウムが1・07トン、永久磁石になるネオジムが1・5トン、それぞれ含まれていたとみられるという。
(中略)
米紙ワシントン・ポストは一連の報道に加えて(中略)「日本のある下水処理場では、汚泥の焼却灰から抽出される金の割合が鉱山より高い」と伝えた。
マルコ・ポーロに「黄金の国ジパング」と呼ばれた日本への憧憬や、先入観に基づくフェイク(偽)ニュースではない。にわかに信じがたい話なのだが、日本には汚泥に金が含まれている下水処理場が実際にあるのだ。
驚いたことに、2009年に広く報じられた話であるにもかかわらず産経新聞の記者は諏訪市の話を知らず、ワシントンポストを読んで初めて知ったようです。ただ、「にわかに信じがたい話」と思ったためか諏訪市にきちんと取材しており、記事のその部分は有益な情報なので引用すると、
長野県諏訪市の豊田終末処理場。汚泥の焼却灰を高温で溶かして結晶化させ、建設資材として利用するための施設から、金が濃縮された飛灰(ひばい)や残渣(ざんさ)が採れるという。
(中略)
初年度の平成20(2008)年度は約4千万円を売り上げた。売却益は下水道の維持管理に活用している。
長野県諏訪湖流域下水道事務所によると、汚泥から金が採れる理由ははっきりしないのだが、周辺の温泉水に金が含まれていて下水に混じるのか、電子基板に金メッキを施す精密機械工場から排水に流れ込んでいるか、どちらかだとみられる。
ただ、ここ数年は含有量が減ってきており、昨年度は売り上げも約800万円に減少。同事務所の担当者は産経新聞の取材にこう話した。
 「排出源とみられる方々が、気をつけるようになったのではないか。なにせ私たちは『下水から金が採れる』と公言しているわけなので…」
だそうです。