AS IT IS
The Woman Behind the Image of the Black Hole
April 12, 2019

ブラックホールの映像を捉えようとすることは、月の表面に置かれたオレンジの写真を地球から撮ろうとするようなものです。あなたのスマホで。

これはケイティ・バウマン博士が2年前にTEDトークで話したことだ。演題は「ブラックホールの写真の撮り方」

バウマンは29歳。彼女はコンピュータサイエンス及び工学の博士号をマサチューセッツ工科大学で取得し、その後、国際的な「事象の地平線」望遠鏡(EHT)プロジェクトのポスドク研究者となった。このプロジェクトの科学者らは、世界中のいくつもの望遠鏡から収集されたデータを元にブラックホールの映像を生み出した。協力することで、彼らは地球サイズの「仮想的な」望遠鏡を形成し、それはかつては不可能だと考えられたことを行うに足る能力を持つものとなった。

今週、ハーバード大学のシェパード・S・ドールマンが率いている科学者チームは、史上初となるブラックホールの映像を一般に公開した。

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それからほどなく、もう一枚の画像がソーシャルメディアやニュースを通じて拡散された。そこに写っているのは笑顔のバウマンと、彼女のパソコン画面に表示されているブラックホールの画像だ。彼女はフェイスブックにこう書いている。「私が作ったブラックホールの初映像を信じられない思いで見ている様子を再現している所」。

バウマンはアルゴリズム、すなわち一連のコンピュータ処理の開発を支援するチームを率いている。それにより、望遠鏡からの膨大なデータを一つの画像に変換するのだ。

バウマンはたちまち科学における女性の象徴となった。

特に人気があるツイッターの投稿に載っているのは横に並べた写真で、バウマンがブラックホールの画像データを収めたハードディスクと写っているものと、隣の写真はもう一人の女性科学者、マーガレット・ハミルトンのものだ。1969年、ハミルトンはNASAのアポロ宇宙計画で宇宙船に搭載するコンピュータ用のコード作成に協力していた。


ツイッター利用者のタミー・エマ・ペピンはバウマンのことをこう書いている。「科学界の更なる女性に乾杯。功績を認められ、歴史に名を残していく」。


またツイッター利用者のプージャ・チャンドラスカカーは、ハーバード大で工学の課程を最近修了したところだが、こう書いている。「とても多くの少女たちが、ケイティ・バウマン博士を刺激だと受け止めるでしょう。そして自身が発見を成すことに取り掛かります。宇宙で、物理学で、そしてコンピュータ科学で。これは歴史的な瞬間です。科学にとってのみならず、科学界の女性にとって」。


しかしバウマン自身はすぐに、自分だけがこのブラックホール映像の貢献者ではないことを強調した。彼女はフェイスブックにこう投稿している。「一つのアルゴリズムや人物がこの映像を作り出したのではありません。地球各地から集まった科学者チームの驚くべき才能、そして何年間もの大変な努力が必要でした…」

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水曜の報道機関向けイベントの後で、バウマンは報道陣と会見をした。そこで彼女は、更なるアルゴリズムや手法を開発することを楽しみにしていると述べている。それは、ブラックホールのもっと上質で鮮明な映像をもたらすのに役立つものだ。

バウマンは年内に、カリフォルニア工科大学で教員としてのキャリアを開始する予定だ。

アシュリー・トンプソンでした。

[ノート]
behind:~の後ろに、後方に、~の裏側に、~の陰に
例文driving force behind a movement to:~する活動を支える原動力

capture:捕らえる・捕獲する・記録する
Dr. Katie Bouman:Katherine Louise Bouman (born 1989) is an American imaging scientist and an incoming assistant professor of computing and mathematical sciences at the California Institute of Technology. She researches computational methods for imaging, and was a member of the Event Horizon Telescope team that captured the first image of a black hole.(英語版wikipediaより)
TED talk:TEDTalksは、ネットを通じて行なわれている動画の無料配信プロジェクトのこと。TEDTalksは2006年にスタートし、TEDの名を広い範囲の人々に知らしめる役を果たしている。TEDTalksでは、TEDカンファレンス、TEDグローバル、TEDプライズ、TEDxの講演の中から、キュレーションされた動画を公開しており、2015年6月時点で2000本を超える動画が公開されている。配信はTEDのホームページ http://www.ted.com 、およびYouTube上の公式チャネル http://www.youtube.com/TEDtalksDirector の両者を通じて並行して行なわれている。2009年5月、Nokiaの協賛で各言語への翻訳プロジェクトTED Open Translation Projectが開始された。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
TED:TED(テド、英: Technology Entertainment Design)は、アメリカ合衆国のニューヨーク市に本部があるLLC。カナダのバンクーバー(過去には米カリフォルニア州ロングビーチ、モントレー)で、毎年大規模な世界的講演会「TED Conference」(テド・カンファレンス)を開催(主催)している非営利団体である。カンファレンスは、1984年に極々身内のサロン的集まりとして始まったが、2006年から講演会の内容をインターネット上で無料で動画配信するようになり、それを契機にその名が広く知られるようになった。1984年からと、ハイテク系の話題の多いタイプのカンファレンスとしては比較的古くからある一つであり、変遷もあるが、基本的には学術・エンターテインメント・デザインなど様々な分野の人物がプレゼンテーションを行なうというスタイルである。講演者には非常に著名な人物も多く、ジェームズ・ワトソン(DNAの二重螺旋構造の共同発見者、ノーベル生理学・医学賞受賞者)、ビル・クリントン(元アメリカ合衆国大統領、政治家)、ジミー・ウェールズ(オンライン百科事典ウィキペディアの共同創設者)といった人物がプレゼンテーションを行なっているが、最重要事項はアイディアであり、一般的には無名な人物も数多く選ばれ、プレゼンテーションしている。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
engineering:工学
Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学(英語: Massachusetts Institute of Technology)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジに本部を置く私立工科大学である。1865年に設置された。通称はMIT(エム・アイ・ティー)(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
postdoctoral researcher:博士課程修了後の研究者
Event Horizon Telescope, or EHT, project:イベントホライズンテレスコープ(Event Horizon Telescope: EHT)は、地球上にある電波望遠鏡を超長基線電波干渉法(VLBI)を用いて結合させ、銀河の中心にある巨大ブラックホールの姿を捉えるプロジェクトである。観測対象は、天の川銀河の中心にある「いて座A*」と巨大楕円銀河M87の中心にある超巨大ブラックホールであり、これを撮影可能な解像度を有している 。イベントホライズンとは事象の地平面を意味する。現在、マサチューセッツ工科大学のシェパード・ドールマン(Sheperd Doeleman)がプロジェクトディレクター、アリゾナ大学のディミトリス・サルティス(Dimitrios Psaltis)がプロジェクトサイエンティスト、ライデン大学のレモ・ティラヌス(Remo Tilanus)がプロジェクトマネージャーを務めている。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
Event Horizon:事象の地平面(じしょうのちへいめん、event horizon)は、物理学・相対性理論の概念で、情報伝達の境界面である。シュバルツシルト面や事象の地平線(じしょうのちへいせん)ということもある。情報は光や電磁波などにより伝達され、その最大速度は光速であるが、光などでも到達できなくなる領域(距離)が存在し、ここより先の情報を我々は知ることができない。この境界を指し「事象の地平面」と呼ぶ。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
Telescope:望遠鏡
a series of:一連の、一続きの、連続的な
Together:一緒に、共に、合わせて、協力して、全体で、一斉に、同時に、組み合わさって、まとまって
form:形づくる、形成する、結成する、組織する
virtual:仮の、仮想の、事実上の、実際上の
once:一度、一旦、かつて、以前
Sheperd S. Doeleman:Smithsonian Astrophysicist and Harvard Senior Research Fellow(https://projects.iq.harvard.edu/sdoeleman/homeハーバード大のサイトより)
Harvard University:ハーバード大学(Harvard University)は、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストン近郊のケンブリッジに位置する総合私立大学。アイビー・リーグのひとつで、イギリス植民地時代の1636年に設置されたアメリカ最古の大学である。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
release ~ to the public:~を公表する、一般に公開する
Soon after:~の直後、~から間もなく、すぐに
“Watching in disbelief as the first image I ever made of a black hole was in the process of being reconstructed.”:(訳に自信なし。とても気になる大事な一文だけど、これでいいのか不明。)
in disbelief:信じられないといった様子で、信じられない思いで
例文blink in disbelief:信じられないといった様子でまばたきする
 as the first image I ever made of a black hole 
in the process of:~の過程で、~の最中で、途中で、~しているところだ、~されつつある、~に向かっている
例文in the process of building a house:家を建てようとしているところである
reconstruct:再建する、再構築する、作り直す、再現する
例文reconstruct what happened:起こったことを再現する、再構成する
create:作る、開発する、生み出す、創り出す
algorithm:アルゴリズム(英: algorithm)とは、数学、コンピューティング、言語学、あるいは関連する分野において、問題を解くための手順を定式化した形で表現したものを言う。算法と訳されることもある。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
set of:ひとそろいの、一式の、一連の
turn A into B:AをBに変換する、変える、~にする
huge amount of:大量の、山のような、膨大な
telescopic:望遠鏡の、望遠鏡による
symbol for:~の象徴
side-by-side:並んでいる、隣り合っている、対照、比較
next to:~の隣に、~に隣接して
Margaret Hamilton:マーガレット・ハミルトン(Margaret Heafield Hamilton、1936年8月17日生まれ) はアメリカ合衆国のコンピュータ科学者、プログラマ、実業家。彼女がチャールズ・スターク・ドレイパー研究所のソフトウェアエンジニア部門の責任者であった当時、そこでアポロ計画のフライトシステムソフトウェアが開発された。1986年にマサチューセッツ州ケンブリッジでハミルトンテクノロジー (Hamilton Technologies, Inc.) を創業しCEOとなった。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
on-board:搭載された、取り付けられた、内蔵の、船内の
code:ソースコード(英: source code)とは、コンピュータプログラミング言語で書かれた、コンピュータプログラムである文字列(テキストないしテキストファイル)のことである。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
Apollo space program:アポロ計画(アポロけいかく、Apollo program)は、アメリカ航空宇宙局(NASA)による人類初の月への有人宇宙飛行計画である。1961年から1972年にかけて実施され、全6回の有人月面着陸に成功した。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
Tammy Emma Pepin:
Here's to:~を祝して乾杯、~に乾杯
get credit:功績を認められる、単位を取る
be remembered in history:歴史にその名が刻まれている、その名が後世に伝えられている
Pooja Chandraskekar:
completed her studies:(訳に自信なし。やっていた研究が完成したの意味か、学科課程を修了したの意味か? 訳は後者を採用したが)
complete study:研究を終える、完了する
参考complete a 12-year course of study:12年の学校教育を修了する
complete:仕上げる、終える、完成する、終了する、すべて満たす
see ~ as:~を…と見る、考える、思う、見なす、受け止める、とらえる
inspiration:刺激、鼓舞、刺激するもの、ひらめき、啓示、霊感
go on to:~に進む、~に進学する、~に取り掛かる、続ける、進出する、
make a discovery:発見をする
space:宇宙
physics:物理学
historic moment:歴史的な瞬間
note:注意する、気を配る、言及する、指摘する、強調する
responsible for:~に責任がある、~の責任を負う、~のおかげだ、~の貢献者である
require:必要とする、要求する、求める
amazing talent:驚くべき才能
from around the globe:世界中から、世界各地から
hard work:きつい仕事、重労働、激務、大変な努力、猛勉強、勤勉
press event:報道機関向けのイベント
speak with:~と話す
members of the media:報道陣
look forward to:楽しみにする、待ち望む、期待する、心待ちにする
method:方法、方式、手法、方途
lead to:~に通じる、つながる、至る、引き起こす、原因となる
sharp:(ここでは)鮮明な、はっきりした、くっきりした
teaching career:教師としての経歴
California Institute of Technology:カリフォルニア工科大学(英語: California Institute of Technology)は、米国カリフォルニア州に本部を置く私立工科大学である。1891年に設置された。Caltech(カルテック、カルテク、キャルテク)の略称でも親しまれる。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
later this year:年内に、今年中に

MITで博士号を取り、国際プロジェクトで重要な貢献を成し、CALTECHで教壇に立つ。夢物語か!

「ブラックホールの撮影に成功」については日本語での報道も多数ありますが、WIREDの記事にケイティ・バウマン博士が出てくるので、それを紹介します。「アインシュタインの影を追い続けた国際チーム:「ブラックホールの最初の画像」はこうして撮影に成功した 2019.04.13」 その個所を引用すると、
数年かけて開発されたアルゴリズムが謎を解いた
この画像を最初に目にしただろうEHTチームの一員、ハーヴァード・スミソニアン天文物理学センターでポスドクとして従事するケイティ・ボウマン博士は、家族にすらひた隠しにしていたブレイクスルーを、ようやく公開できたことを喜んだ。3年前、マサチューセッツ工科大学でコンピューターサイエンスの大学院生だったときから、ブラックホールの画像を作成するアルゴリズムに取りかかっていたというボウマン博士は、会見で興奮気味に次のように語っている。
「この画像は本当にたくさんのことを教えてくれます。理論的には、ブラックホールがリング状に見えることが示唆されていましたが、まさかわたしたちの画像にもリング状の物体が現れるとは思いもしませんでした。ただの光のかたまりが写ると思っていたのですから!」
今回発表されたブラックホールの画像は、ボウマン博士のアルゴリズムによりレンダリングされたものだ。500kgのハードディスクが満杯になるほど大容量の生の画像データは、ノイズだらけで乱雑としており、それをひとつの整然とした画像として組み立てるアルゴリズムの作成には、実に数年を要した。
「リングが見えたこと、そしてその大きさが、まったく異なる測定方法でとられたデータと完全に一致したこと。それ自体が大きな科学的飛躍だと思います」と、話すボウマンは、EHTチームの一員としてリサーチを続けるかたわら、もうすぐカリフォルニア工科大学で計算数理科学の准教授として新たな門出を迎える予定だ。
もう一つ、日本の寄与について日経新聞から「データ解析、日本が大役 ブラックホールを初撮影  2019/4/11」 一部引用すると、
研究グループはチリにあるアルマ望遠鏡をはじめ、米国、メキシコ、スペイン、南極にある電波望遠鏡を連動させ、地球サイズの巨大な望遠鏡を仮想的に実現した。アルマ望遠鏡は日本や台湾、韓国、米欧が共同で運用する。標高5千メートルにあるアンテナ群から山麓の施設に光ファイバーのケーブルで観測データを送る装置は国立天文台が開発を担当した。
8つの電波望遠鏡で観測したデータの解析には本間教授らが開発した手法が採用された。少ないデータから本質的な部分を取り出す「スパースモデリング」と呼ばれる数学的な手法を活用し、世界に散在する望遠鏡のデータを統合してブラックホールの鮮明な画像を作る手法を編み出した。
最後に、このプロジェクトに参加した日本チームの記者会見の様子。国立天文台がYoutubeにアップしているので貼っておきます。
日本側の貢献を一生懸命アピールされていますが、彼らの予算がアメリカチームの何分の一くらいなのか知りたいところです。

余談ですが、VOAの記事の'help'という単語の使い方が気になりました。WikipediaではMargaret Hamiltonの事を「ハミルトンは最終的にアポロ計画とスカイラブ計画用のソフトウェアプログラムの指導者であり監督者となった。」と書いており、VOA記事の「アポロ計画でコード作成に'help'していた」というのは日本語的にはさすがにおかしい気がしますが、英語ではこれでいいんでしょうか?