AS IT IS
Drought Affects Panama Canal Shipping
May 02, 2019

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今年、エルニーニョという天候の傾向がパナマに渇水をもたらしている。雨量不足によって同国のガトゥン湖は水位が低下している。そこはパナマ運河の主要部分にあたる湖だ。

エルニーニョは繰り返し起きる天候の型で、エルニーニョが起きている年の間、太平洋の温かな海水温が一部の地域には乾燥した状況を、また違う地域には雨が多い状況を引き起こす。

最近、パナマ運河庁は船がこの水路の閘門を通過することに制限を課している。

運河庁の措置は、船が水面下どれだけの深さにまで達してよいかを制限するものだ。それは大型の船、主に合衆国と中国から来た船が、より少ない積荷で通過しなければならないことを意味している。

運河は海運会社に対し、その船の大きさとどれだけの貨物を積んでいるかに応じて料金を課している。従って船が軽いほど、誰にとっても利益が減少することになる。

カルロス・バルガスは運河庁の環境と水担当副長官だ。先日の彼の話では、世界最大の人造湖の一つであるガトゥン湖は、年間のこの時期の通常水位を1.4メートル下回っており、4月の初めから20センチ以上低下している。これも運河の役割を果たしている小さな湖であるアラフェラ湖は、いつもの水位を2.2メートル下回っている。

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「パナマ運河のこうした低水位は、4~5ヶ月にわたる降水量ほぼゼロの結果です」とバルガスはAP通信に話している。「これは運河の歴史で経験した中でもまさに乾季中の乾季です。湖への川の水量は60%減少しました」。

運河庁が極端な気候傾向に直面したのは初めてのことではない。2015年から2016年にかけての乾季は、これもエルニーニョ絡みだったが、収益をおよそ4,000万ドル失わせた。

飲料水と金

また、渇水が影響を及ぼしているのは船舶輸送にとどまらない。水の供給と観光業からの利益が二大懸念事項だ。

スティーブ・ペイトンはスミソニアン熱帯研究所に勤務している。彼によれば、飲料水は今年は問題にならなさそうだが、ただ将来のことは分からない。気象事象はますます極端になってきていると彼は指摘している。

テルビニア・タスコンはガトゥン川沿いにあるサン・アントニオ・ウナンで暮らしている芸術家だ。タスコンによれば、観光客は普段なら毎日手作りの品を買いにやって来る。しかし最近は、モーターボートが運河に来るのに苦労している。彼女は、今回が覚えている限り最も激しい干ばつだと話している。「私にとっては嘆かわしいことです」と彼女は言い加えた。

救援は5月下旬か6月半ばまでにはやって来るかもしれない。雨季による雨が湖を満たす時期が。

ジョン・ラッセルでした。

[ノート]

El Nino:エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。ひとたびエルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられています。(気象庁のサイトより)
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weather pattern:気象パターン、天候の傾向
例文shift of weather patterns:天候の傾向の変化、型の変化
drought:日照り、干ばつ、渇水
Panama:パナマ共和国、通称パナマは、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の境に位置する共和制国家である。首都はパナマシティ。
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lack of rain:雨不足
lower:下げる、低くする、落とす、減じる
level:高さ、高度、深さ、水準、(ここでは)水位
例文groundwater level change:地下水位変化
Gatun Lake:ガトゥン湖は、パナマにある人造湖。パナマ運河の水利機構を構成している。船で横断する際の距離は43.5km。ガトゥン湖は1907年から1913年にかけてパナマ運河に隣接するようにして流れるチャグレス川にガトゥンダムを造成したことにより形成された。その当時では人工湖として世界最大であり、ダムもまた世界最大であった。湖水面の海抜は26mである。12月下旬から4月上旬の乾期には、閘門(カナルロック、水門で区切られた部分)に湖水が供給され、水位調整に使われる。1980年代後半から森林伐採によって植生が減少したために、森林地帯が保持できる水の許容量は減衰するようになった。結果として湖には、大量の水が短期間に流れ込むことになった。このことは運河の運営に支障を来たすので、対策として大量な降雨の合間には水位を下げるようにしている。
major part of:主要部分、大部分、大半
Panama Canal:パナマ運河)は、パナマ共和国のパナマ地峡を開削して太平洋とカリブ海を結んでいる閘門式運河である。パナマ運河の規模は全長約80キロメートル、最小幅91メートル、最大幅200メートル、深さは一番浅い場所で12.5メートルである。マゼラン海峡やドレーク海峡を回り込まずにアメリカ大陸東海岸と西海岸を海運で行き来できる。スエズ運河を拓いたフェルディナン・ド・レセップスの手で開発に着手したものの、難工事とマラリアの蔓延により放棄。その後パナマ運河地帯としてアメリカ合衆国によって建設が進められ、10年の歳月をかけて1914年に開通した。長らくアメリカによる管理が続いてきたが、1999年12月31日正午をもってパナマに完全返還された。現在はパナマ運河庁 (ACP) が管理している。国際運河であり、船籍・軍民を問わず通行が保証されている。
Panama_Canal_Map_EN
warm:暖かい、温かい
ocean temperature:海洋温度、海水温
Pacific:太平洋
lead to:通じる、つながる、至る、引き起こす、原因となる
dry condition:乾燥状態
dry:乾いた、乾燥した、雨が少ない
condition:状態、状況、様子、様相
wet condition:湿潤状態
wet:ぬれた、湿った、雨が多い、多湿の
Panama’s Canal Authority:パナマ運河庁
put a limit on:~に制約を課す、制限を加える
move through:進む、通り抜ける、移動する、通過する
waterway:河川、水路、運河
lock:(ここでは)水門、閘門
参考:閘門(こうもん)は、水位の異なる河川や運河、水路の間で船を上下させるための装置である。閘門の特徴は、固定された閘室(前後を仕切った空間)内の水位を変えられることで、これに対して同じく船を上下させるための装置であるケーソン水門(Caisson lock)、船舶昇降機、運河用のインクライン(Canal inclined plane)などでは閘室自体を上下させる。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
move:動くこと、移動、動き、手立て、手段、措置
restrict:制限する、限定する、規制する
below the surface:表面下で、水面下で
mainly:主に、大部分は
pass through:通る、通過する、通り抜ける、通行する
cargo:貨物、積み荷
charge:請求する、課す、料金を取る
shipping:船積み、積み込み、海運業、船舶輸送
shipping company:輸送会社
based on:~に基づいて、~を根拠にして
light:軽い、軽量の、少ない
Carlos Vargas:Vicepresidente de Agua y Ambiente del Canal de Panama(Linkedinから
vice president:副社長、副会長、副総裁、副総長(肩書名の訳は適当)
for:(ここでは)~担当の
environment:環境、情勢
artificial lake:人造湖
below:~の下に、~より低く、未満で
normal level:正常値、正規の水準
this time of year:この時期、この季節
drop:落ちる、下がる、低下する
supply:供給する、支給する、提供する、の役割を果たす
例文supply an antidote to:~に対する解毒剤の役割を果たす
Alajuela:アラフエラ湖はパナマのチャグレス川にある人造湖。1935年に完成したマッデンダムによってガトゥン湖の上流に作られ、パナマ運河とつながっている。アラフエラ湖に蓄えられた水は、閘門(カナルロック、水門で区切られた部分)に供給され、水位調整に使われる。運河の水の45パーセントを供給している。2010年12月はじめ、アラフエラ湖の水位が最大を記録し、パナマ運河が12月8日から9日にかけて17時間閉鎖された。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
usual:通常の、通例の、普通の.
product:生産品、製品、商品、産物、成果、帰結
precipitation:降水、降水量
really:全く、実に、とても、かなり、すごく、実際に、本当に、実のところ
flow:流れ、流量
cost:費用が掛かる、負担をかける、犠牲を払わせる、~に…を失わせる
some:およそ
earnings:報酬、賃金、利益、収益
例文first-quarter earnings:第1四半期売上高
Drinking water:飲料水
dollar:ドル、金銭
more than:(ここでは)~だけではない、単に~にとどまらない
shipping:船積み、積み込み、海運業、船舶輸送
profit:利益
tourism:観光旅行、観光客、観光事業、観光産業
concern:関心事、懸案事項、不安、心配
Steve Paton:この人かな
be with:~に雇われて、~に勤務して、~の一員で
Smithsonian Tropical Research Institute:スミソニアン熱帯研究所はワシントンに本部のあるスミソニアン協会の研究機関の一つで、パナマ市内の西部、バルボアに本部があります。(鳴門教育大学のサイトより)
likely:~しそうである
Weather event:天気事象
例文extreme weather event:異常気象事象
increasingly:ますます、どんどん、だんだんと、次第に
note:書き留める、留意する、言及する、指摘する
Telvinia Tascon:(資料見つからず)
San Antonio Wounaan:(資料見つからず)
on:沿って、面して、側に
例文a house on the river:川に面した家
tourist:観光旅行者
handmade:手作りの、手製の
lately:最近、この頃
motorboat:モーターボート
have trouble:苦労する、困難である
move in:動く、進む、移動する、向かう
channel:海峡、運河、水路、航路
strongest:(ここでは)激しい、猛烈な、強烈な
remember:覚えている、思い出す
例文as long as one can remember:記憶の限りでは、覚えている限りでは
sad:悲しい、残念な、嘆かわしい
Relief:救援、救済、救助、支援、除去、軽減、安心、安堵、息抜き、救出、解放
wet season:雨季
fill:満たす、あふれさせる、

少し検索した限りでは、日本語での報道は見当たりません。パナマ運河渇水の話は、本邦初紹介かも。

海につながっている運河で水不足とは、パナマ運河が山越えをしているためなんですね。海技教育機構という組織がYoutubeに分かりやすい動画を上げています。
Gatun Lakeは標高が一番高いところにあります。wikiの説明では「湖水面の海抜は26m」。ここが雨不足で水位が低下している訳です。だから積み荷を減らして喫水を浅くしないと船がつっかえてしまうと。ふーむ。むしろ今まで毎年安定的に運用できていたことが驚きかも。
もう一つ、個人の方が上げていると思われる動画も貼っておきます。なんだか音が割れてますけど。
NATIONAL GEOGRAPHIC日本版に関連のある記事がありました。「巨大湖が消える… 温暖化と過剰な取水で渇水が加速 2018/2/28」 一部引用すると、
南米ボリビアにあるポーポ湖は、かつて国内2番目の広さを誇っていた。だが、今はもうない。東京23区の5倍ほどの面積に匹敵する湖の水が、消えてなくなったのだ。同様に、世界各地の湖が、温暖化や水の使い過ぎが原因で枯れようとしている。
(中略)
パナマ運河は、エルニーニョ現象に伴い雨不足にたたられている。そのため、運河をつなぐ人工のガトゥン湖は、閘門(こうもん)を開閉して船を通すことも、飲料水の供給も難しくなりつつある。
運河の運用だけでなく「飲料水の供給も難しくなりつつある」は、VOAの記事と同じですね。
世界経済とパナマ運河の密接な関係について、こんな記事がありました。朝日新聞GLOBE+というサイトから、「運河を通る大豆が減った 米中の衝突がなぜパナマの財布を直撃したのか 2019.04.09」 一部引用すると、
「米国から中国への穀物輸出が急減した。(穀物を積む)ばら積み船の通行量が下がり続けている」。運河を望む高台に立つ運河庁の執務室で、長官のホルヘ・キハーノはそう話した。
米国が昨年かけた高関税に対抗し、中国は昨年7月、米国産の大豆に25%の関税をかけた。米国からアジア向けの大豆輸出の約3割がパナマ運河を通っており、輸出急減のあおりを食らった。大西洋側から太平洋側に流れる大豆の取扱量は、18会計年度(17年10月~18年9月)で530万トンと、前年とくらべて4割以上減った。2年前の半分の水準だ。パナマ運河にとって、米国と中国は1、2位の「お得意先」。その両国による貿易摩擦は、プラスにはなりえない。
(中略)
パナマ運河は2016年、運河を拡張し、より容量の大きい船を通過させることができる新たな閘門を開いた。そこに吹いた追い風が、米国のシェールブームだ。米国が16年ごろから、シェールガスからつくる液化天然ガス(LNG)を中国や日本、韓国などアジア向けに輸出を始めたことで、パナマ運河の通行量も急増。18会計年度の太平洋向けのLNGの取扱量は約2700万トンと前年から約4割増え、2年で5倍以上に急増した。
米中摩擦は、そのシェールブームにも冷や水を浴びせている。
「昨年11月、米国から中国向けのLNG輸出が止まった。ゼロだ」。キハーノはそう明かした。ドル箱の米国産LNGの輸出の6割近くがパナマ運河を通っており、大豆以上に存在感は大きい。12月には輸出は再開したというが、「インパクトは相当だ」。
(中略)
人口約400万人、北海道より狭い小国パナマは、輸出できるモノは農産品ぐらいしかなく、運河や港などの貿易関連、金融、観光などのサービス業で栄えてきた。パナマ運河の通行料収入は年間約24億ドル(約2700億円)。国家予算の約1割を占めており、運河の将来は国の繁栄にも影響する。
日経新聞にはこんな記事も。「パナマ運河通航料6年連続増 景気拡大で荷動き回復 2018/9/28」 一部引用すると、
パナマ運河を通る際に日本の海運会社が支払う通航料の総額が6年連続で増加した。日本船主協会(東京・千代田)がまとめた2017年度の通航料は3億1632万ドルと、前年度から4.2%増。世界的な景気拡大で荷動きが活発となった。16年の運河拡張で航行が可能となった大型の液化天然ガス(LNG)船などの運航隻数も増えた。
ちょっとビックリしました。先ほどの記事では「パナマ運河の通行料収入は年間約24億ドル」で、日経の記事では「日本の海運会社が支払う(中略)通航料は3億1632万ドル」。
日本の海運会社のプレゼンスって大きいんですね。まぁ日本の海運会社だからといって、行き先が日本とは限らないのでしょうが、それでも、万一LNGの輸入に支障をきたしたら日本経済は結構マズイ事態ではないでしょうか。